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2007/02/03 15:30
熊本市は「資源物持ち去り禁止をするための条例改正案」に関するパブリックコメントを実施しました。
これに対して、私たちは、熊本の弁護士・司法書士・多重債務相談員のほか、全国の司法書士有志で賛同し、以下のような意見書を提出しました。
意 見 書
2007年2月2日
熊本市長 幸山政史 殿
賛 同 者 一 同
(賛同者代表連絡先)
司法書士 澤田章仁
第1 意見の趣旨
私たちは、貴市が議会に提出を予定している、資源物等の持ち去りを禁止するための「熊本市廃棄物の処理及び清掃に関する条例」(以下「廃棄物処理条例」と称させて頂きます。)改正案に対し、その提出を取り止め、内容に関する再考を求めるため、本意見書を提出致します。
第2 意見の理由
貴市は、廃棄物処理条例の改正案として、(1)市及び市が指定する者(資源物等の収集業務を市が委託した業者等)以外の者が、ごみステーションに出された新聞紙・段ボール・空き缶・自転車などの廃棄物を持ち去ることを禁止し、(2)その禁止の実効性を確保するために貴市がパトロールを行い、かつ、市民には、持ち去り行為者について、行為者の特徴、車のナンバーや行為の行われた場所や日時、持ち去られた物などの情報提供を求めることとし、さらに、(3)市長は、持ち去り行為を行った者に対し持ち去り行為の禁止命令を発し、その禁止命令に違反した者に対しては、20万円以下の罰金に処するとして、刑罰まで定めることとしています。
しかし、以上のような条例改正案には、以下のとおり、看過できない違憲・違法の問題が含まれております。
(1)持ち去り禁止に関する違憲性・違法性
先ず上記(1)のとおり、市及び市が指定する者(資源物等の収集業務を市が委託した業者等)以外の者が、ごみステーションに出された新聞紙・段ボール・空き缶・自転車などの廃棄物を持ち去ることは、通常、ホームレスの人々以外には、考えられません。したがって、この条例改正案は、たんにホームレスの人々の持ち去りを禁止するものにほかなりません。このような条例改正案は、ホームレスの人々の生存を極めて危険な状態にさらすものであり、以下に説明するとおり、生存権を保障した憲法25条、ならびに国際人権規約(社会権規約)、生活保護法、ホームレス自立支援法に反するものです。
憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているところ、ホームレスの人々は、既に「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されていない状態となっているのですが、こういった状態がなくならないのは、主に生活保護の運用に関する行政の手法に誤りがあるからです。生活保護法は、憲法25条が保障する生存権を具体化した立法であり、ホームレスの人々もその現在地において保護の対象として予定されておりますが(生活保護法19条1項2号)、そもそも同法は、居宅保護を原則としており、ホームレスの人々についても、要保護性が認められる限り、居宅保護を原則とした生活保護が実施されなければならないはずです。日本も締約国である国際人権規約・社会権規約11条1項が、「生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利」を規定しているのは、これと同じ趣旨を含むと解されます。
しかし、行政は、ホームレスの人々に対し、ホームレスであることのみをもって生活保護の開始を拒むなどの違法な運用をしてきました。この点については、厚生労働省の平成15年7月31日社援保発第0731001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知でも明らかになっております。
この点、貴市におかれましては、近年では、憲法その他の法令の趣旨に基づいた生活保護の運用に努力してきておられるところと考えます。しかし、現実には、いまだホームレスの人々が賃貸住宅を借り上げるのには、保証人問題などの高いハードルがあり、居宅保護の原則は十分には保障されていない現状があります。
このような現状において、ホームレスの人々は、住居その他の生活基盤を持てないため、身なりが整わない、社会的信用がない、ひいては健康状態が損なわれ、職業選択が大幅に制限されおります。また、社会の様々な偏見や差別にさらされながら生活することを強いられており、大変苛酷なものとなっております。
ホームレスの人々の多くは、このような現状において、空き缶その他の廃品を収集して換金することにより、かろうじて空腹を和らげ、自己の生命をつないでいるのです。平成15年1月から2月にかけて実施されたホームレスの実態に関する全国調査によれば、ホームレスの人々の64・7%が仕事をしており、その主な内訳は「廃品回収」が73・3%となっています。
このような現状の下で、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(以下「ホームレス自立支援法」と称します。)は、「自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在」することにかんがみ、ホームレスの人々の自立を支援するために、国や地方公共団体等の必要な施策を講ずることなどを定めるために制定されております(同法1条)。
同法によれば、「ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要」(3条2項)とした上で、地方公共団体が自立支援のための施策の策定と実施の責務を負うこととし(6条)、これに基づき国は「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(平成15年厚生労働省・国土交通省告示1号)を策定しております。この基本方針では、「就業による自立の意思があるホームレスに対して、国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等を行っている民間団体との連携を図り、求人の確保や職業相談の実施、職業能力開発の支援等を行うとともに、地域の実情に応じた施策を講じていくことが必要である」とした上で、常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスの人々に対して、清掃業務や雑誌回収等の「都市雑業的な職種」の開拓や情報収集・情報提供を行うべきことが明記されています(第3・2(1)・カ)。そして「都市雑業的な職種」の例示として、雑誌回収が挙げられていることから、その中には、当然、より換金しやすい空き缶その他廃品の回収をも含むと解されます。自立支援法が基調とする就労による自立には、ホームレスの人々が空き缶等の廃品の回収業に従事することを支援する施策も含まれると解すべきであり、その策定と実施は地方公共団体の責務となっているというべきです。
すなわち、今般の廃棄物処理条例の改正案は、貴市が負うべき当該地方公共団体の施策実施の責務を実行しないばかりか、かえって廃品回収業によるホームレスの人々の自立を困難にするものです。
(2)罰則規定に関する違憲性
貴市は、廃棄物処理条例の改正案の理由を、@「市は、責任をもって家庭の一般廃棄物の処理を遂行していく立場にあることから、市の行う一般廃棄物の処理に対する妨害行為である持ち去り行為の防止に努める必要があります。」とし、またA「持ち去り行為は、市民の方々への迷惑になっていることや分別への協力意欲の低下を招き、ひいては市の一般廃棄物の処理やリサイクルの推進に対する信頼の低下につながることから、市としては、見過ごすことができない状況にあると判断しました。」としています。
このような改正の理由にも、確かに一理あるでしょう。しかし、こういった理由では、現に、ホームレスの人々の自立の道を断ち、その生存を脅かしてもよいほどの理由にはなりません。@の提案理由については、前述の憲法・条約・その他の法令の趣旨目的の方が利益衡量上も優先することは明らかであり、廃品回収を「妨害行為」と決め付けること自体に無主物先占(民法239条1項)に関する誤解があります。また,Aの提案理由については、すでに廃品回収を生業としているホームレスの人々の労力を活用することや、ごみステーションなどにごみを散らかさないように注意を促すためのたて看板を掲示するなど、より抑圧的でない他の方法によっても一定の成果をあげることができるはずです。貴市におかれましては、前述の憲法・条約・その他の法令の趣旨目的にしたがい、こういった代替策を真摯に検討し推進していくべきです。
そして、今般の廃棄物処理条例の改正案は、最終的には、廃品等を持ち去った者に対し、罰金20万円の刑罰を科すこととしておりますが、廃品の持ち去りといった極めて軽微な行為に対して、このような刑罰を科すことは、憲法31条が定める罪刑法定主義(刑罰均衡の原則)にも反するものです。また、ホームレスの人々は、通常、資力は全くなく、このような罰金の負担は極めて過酷な負担となることを考えれば、このような規制手段が合理性を欠いていることは明らかです。
このような規制手段を規定する今般の条例改正案が現実化すれば、ホームレスの人々が自己の生存を確保するための活動さえ萎縮させ、自立を損なうことは明白であり、到底、憲法、国際人権規約その他の法令(生活保護法・ホームレス自立支援法など。)の趣旨目的に合致するものとはいえず、違憲の疑いすら否定できないものです。
結語
以上により、私たちは、貴市に対し、ホームレスの人々の生活実態と地方公共団体の本来の責務を踏まえ、今般の条例改正案の提出を取り止めることを求めます。
以上
賛同者一覧
弁 護 士 加藤修(熊本県弁護士会)
弁 護 士 青山定聖(熊本県弁護士会)
弁 護 士 板井俊介(熊本県弁護士会)
弁 護 士 長谷山尚城(熊本県弁護士会)
弁 護 士 吉田哲也(熊本県弁護士会)
相 談 員 吉田洋一(熊本クレ・サラ・日掛被害をなくす会)
相 談 員 高浜登志子(熊本クレ・サラ・日掛被害をなくす会)
司法書士 山田麻紀子(熊本県司法書士会)
司法書士 稲本信広(熊本県司法書士会)
司法書士 村山鉄次(熊本県司法書士会)
司法書士 野田浩光(熊本県司法書士会)
司法書士 黒江正志(熊本県司法書士会)
司法書士 岡村光洋(熊本県司法書士会)
司法書士 西岡健一郎(熊本県司法書士会)
司法書士 西岡容子(熊本県司法書士会)
司法書士 田島賢治(熊本県司法書士会)
司法書士 井上勉(熊本県司法書士会)
司法書士 田中千奈(熊本県司法書士会)
司法書士 島田武典(熊本県司法書士会)
司法書士 中田誠一(熊本県司法書士会)
司法書士 山本拓馬(熊本県司法書士会)
司法書士 後藤俊二(熊本県司法書士会)
司法書士 立山淳子(熊本県司法書士会)
司法書士 山田佳代(熊本県司法書士会)
司法書士 P輝大(熊本県司法書士会)
司法書士 澤田章仁(熊本県司法書士会)
司法書士 西澤英之(青森県司法書士会)
司法書士 伊見真希(千葉県司法書士会)
司法書士 若鍋敬治(東京都司法書士会)
司法書士 秋山淳(東京都司法書士会)
司法書士 古根村博和(神奈川県司法書士会)
司法書士 荻原世志成(長野県司法書士会)
司法書士 小澤吉徳(静岡県司法書士会)
司法書士 外山玲那(愛知県司法書士会)
司法書士 野ア史生(愛知県司法書士会)
司法書士 前川一彦(奈良県司法書士会)
司法書士 西山弓子(奈良県司法書士会)
司法書士 高原勉(兵庫県司法書士会)
司法書士 正影秀明(岡山県司法書士会)
司法書士 余村博樹(島根県司法書士会)
司法書士 濱田なぎさ(福岡県司法書士会)
司法書士 大部孝(福岡県司法書士会)
司法書士 安河内肇(福岡県司法書士会)
司法書士 徳永慎一(福岡県司法書士会)
司法書士 柿木高紀(福岡県司法書士会)
司法書士 奈良田真作(福岡県司法書士会)
司法書士 渡邉慎一郎(福岡県司法書士会)
司法書士 三代由美子(福岡県司法書士会)
司法書士 嶋村啓志(福岡県司法書士会)
司法書士 谷崎哲也(福岡県司法書士会)
司法書士 及川修平(福岡県司法書士会)
司法書士 李漢彦(福岡県司法書士会)
司法素子 梯輝元(福岡県司法書士会)
司法書士 福田哲也(福岡県司法書士会)
司法書士 芝田淳(鹿児島県司法書士会)
司法書士 是枝真紀(鹿児島県司法書士会)
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